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内部資源の価値を最大化するための分析手法:VRIO分析と競争優位性の確立

企業が市場で競争優位性を確立するためには、自社が持つ内部資源の価値を正確に把握し、それを最大限に活用することが求められます。そこで注目されるのが「VRIO分析」というフレームワークです。この分析手法は、企業が保有する資源や能力を「価値」「希少性」「模倣困難性」「組織」の4つの視点から評価し、競争優位性を維持するための戦略を導き出します。本記事では、VRIO分析の基本から実際の活用法までを解説し、どのようにして内部資源を活用して市場でのポジションを強化できるかを探ります。

競争優位性とは

企業の競争力の源泉、つまり競争優位性はどこにあるのでしょう。言い換えれば「自社のビジネスを競合他社と差別化して優位に進めるための強みやコア・コンピタンスは何なのか」ということになります。
「戦略は産業構造に依存する」と言ったポジショニング派のマイケル・ポーターなどは外部環境を重視して競争優位性を論じる立場をとっています。
他方で「企業間の経営資産の使い方の違い」に注目したリソースベーストビューを提唱するケイパビリティ派のジェイ・バニーなどは、内部環境を重視して競争優位性を論じる立場をとっています。

企業の内部環境を分析するには

外部環境を重視した経営環境の分析手法には、ファイブフォース分析やPEST分析などのフレームワークを用いた方法があります。
こうした外部環境重視の手法については、別途説明の機会を設けるとして、ここでは内部環境重視の経営環境分析ツール(フレームワーク)について説明します。
代表的なフレームワークに、バリューチェーン分析とVRIO分析があります。これらは、企業の内部環境から強みや弱みを抽出するフレームワークとして別々に紹介されることが多いです。しかし、この2つは分析の段階に応じて両方をうまく使い分けることが有効です。
企業内の経営資源(ヒト・モノ・カネ・ノウハウなど)から、その企業の強みや最強の強み(コアコンピテンス)をあぶり出す作業は、2つの工程に大別できます。前工程の"強みやコア・コンピタンスの候補を炙り出す工程"と、後工程の"強みやコアコンピテンスの候補が本当に強みやコア・コンピタンスと言えるかを判断する工程“です。前工程のあぶり出し作業をバリューチェーン分析で、後工程の判断作業をVRIO分析で行います。
バリューチェーン分析については別途記事で説明しています。今回の記事ではVRIO分析について説明します。

VRIO分析の前提条件とは

VRIO分析は、前述の通りバリューチェーン分析の後工程として、強みやコア・コンピタンスなどを候補から確定へと導きます。
確定作業を行う上で、前提条件が2つあります。まず、業界はもとより、個別企業ごとに異なる経営資源を有しているという「経営資源の異質性」が挙げられます。次に、企業の持つ形資源の中には、真似をするのは難しく、模倣しようとすると逆に大きなコストがかかってしまったりするものや、供給そのものが非弾力的であったりするものがあるという「経営資源の固着性」が挙げられます。
なぜこのような前提条件に立つかを含めて批判を恐れず「超訳」するなら、以下のようになるだろう。
「そもそも企業間の優劣を見定めるために強みやコア・コンピタンス(裏を返せば弱み)を浮き彫りにしたいので、比較対象になっている業界や企業の持っている資源(ヒト、モノ、カネ、ノウハウなど)は、お互い違ったところがなければ比べようがない。だから違いがあることを前提にしよう」これが「経営資源の異質性」部分の超訳です。
超訳はさらに続きます。「違いが存在するとは言っても、これはあくまでも強者を決定するゲームである。単に劣勢比較による“相対的な強者決定"ゲームになっては盛り上がらない。白熱した優勢比較に基づくゲームを演出するためには、ワイルドカード的な強みの源泉を持つ企業が存在する方が良い。プレイヤー(企業)が持っている武器(強みの源泉)の中に、競争相手が真似て作ろうとすると大きなコストがかかってしまうため事実上真似て作るのが不可能に近いものや、そもそも一子相伝などで受け継がれていて模倣することそのものが不可能な魔法の能力(非弾力的な強みの源泉)などがある。このような前提にしよう」これが「経営資源の固着性」部分の超訳です。
VRIO分析は、前述の通りバリューチェーン分析の後工程として、強みやコア・コンピタンスなどを候補から確定へと導きます。
確定作業を行う上で、前提条件が2つあります。まず、業界はもとより、個別企業ごとに異なる経営資源を有しているという「経営資源の異質性」が挙げられます。次に、企業の持つ形資源の中には、真似をするのは難しく、模倣しようとすると逆に大きなコストがかかってしまったりするものや、供給そのものが非弾力的であったりするものがあるという「経営資源の固着性」が挙げられます。
なぜこのような前提条件に立つかを含めて批判を恐れず「超訳」するなら、以下のようになるだろう。
「そもそも企業間の優劣を見定めるために強みやコア・コンピタンス(裏を返せば弱み)を浮き彫りにしたいので、比較対象になっている業界や企業の持っている資源(ヒト、モノ、カネ、ノウハウなど)は、お互い違ったところがなければ比べようがない。だから違いがあることを前提にしよう」これが「経営資源の異質性」部分の超訳です。
超訳はさらに続きます。「違いが存在するとは言っても、これはあくまでも強者を決定するゲームである。単に劣勢比較による“相対的な強者決定"ゲームになっては盛り上がらない。白熱した優勢比較に基づくゲームを演出するためには、ワイルドカード的な強みの源泉を持つ企業が存在する方が良い。プレイヤー(企業)が持っている武器(強みの源泉)の中に、競争相手が真似て作ろうとすると大きなコストがかかってしまうため事実上真似て作るのが不可能に近いものや、そもそも一子相伝などで受け継がれていて模倣することそのものが不可能な魔法の能力(非弾力的な強みの源泉)などがある。このような前提にしよう」これが「経営資源の固着性」部分の超訳です。

VRIO分析のフレームワークとは

前置きが長くなりましたが、次にVRIO分析の内容を見ていきましょう。
VRIO分析は、バリューチェーン分析であぶり出した要素を4つの"問いのふるい"にかける工程です。VRIOの4文字は、そのふるいにはめ込まれた4つの問いのフィルターの頭文字を表しています。

1つ目の問いは Value (経済価値)です。 企業の経営資源には経済価値があるか?

経済価値とは言っても、自社内で抱える経営資源そのものを評価し貨幣価値に換算したものというわけではありません。ここで意識すべきは、その形資源がいくらで評価されるかではありません。内部資源として、外部環境から得られる「機会」を如何に活かして、新しい付加価値を生み出すポテンシャルを有しているかが、より重要です。また、外部環境から押し寄せる「脅威」をどれだけ低減したり無力化したりできるかも、合わせて意識したい視点です。ファイブフォース分析やVRIO分析で得た外部環境に関する情報と照らし合わせて、強みの源泉である経営資源に付加価値を生み出すポテンシャルがあるかどうか、その影響力はどの程度のものかなどを考慮して、具体的な経営資源の経済価値を判断します。

2つ目の問いは Rarity (希少性)です。 競合他社が持っていない経営資源を持っているか?

特定の経営資源を持っているのが自社だけであったり(独占状態)、あるいは自社を含む少数の企業だけであったり(寡占状態)した場合、その経営資源を内部資源として持たない他者に対して、十分な希少性を示すことができます。経済価値の高い系資源に関してこうした状態が維持できれば、供給を上回る需要が市場に存在する、つまり自社にとって差別化によって競争優位性を保つことができる要因となります。逆にこうした均衡状態が崩れれば、市場に同じような商品やサービスが溢れる同質化が起こり、優位性が損われます。

3つ目の問いは Inimitability (模倣困難性)です。 競合他社が真似することができない、あるいは真似することが非常に困難な経営資源を持っているか?

自社に競争優位性のある商品やサービスが模倣困難であればあるほど、そこから得られる競争優位性を維持できる期間も長くなります。
模倣困難性がなければ、たとえ経済価値や希少性のある経営資源であっても、競合他社に模倣されてしまい、競争優位性を長期間保つ事は困難になります。
研究開発段階を経て、経験したトライアルアンドエラー等個別企業固有の経験などから得られた学び等に立脚している場合、模倣困難性はさらに強固なものになります。
また、内部資源をどのように組み立てて、最終的に経済価値のある付加価値を生み出しているのかがブラックボックス化している場合も同様です。ブラックボックス化を意図的に起こす場合もあります。いわゆる「営業秘密」により重要な製品の製造方法を取得する戦略などがその一例です。
逆に、ブラックボックス化して社内に抱え込まず、完全公開することで逆に模倣困難性を維持する方法もあります。特許による保護です。
ここでVRIO分析の2つ目の前提条件を思い出してください。模倣するために、コストがかかりすぎると言う話と、そもそも固有の資源であるため模倣そのものができないと言う話でした。他社が特許取得している技術を使おうとすると、特許使用料がかかります。コストがかかりすぎると言う1つ目の話と一致します。また、製品の製造方法をマニアル等で見える化することなく「目で見て盗め」のような徒弟制度で承継しているような場合やあえて特許取得せずに営業秘密で守り続けるような戦略をとる企業もあります。特定の後継者にしか受け継がれないため、固有の資源に関する2つ目の話と一致します。
模倣困難性は、特定の製品やサービスを実現するための技術やビジネスモデルなどのみに依拠するわけではありません。すでにその製品やサービスを提供する企業の実績や評判などに基づく信用つまりブランド力に相当する部分は、模倣困難性を高める一因となります。

4つ目の問いは Organization (組織)です。 企業の経営資源を活用できる組織体制を持っているか?

ここまで3つの問いを通じて企業内部の経営資源に、経済価値、希少性、魔法困難性が認められたとしても、実はそれだけでは不十分です。このような経営資源を最大限活用してビジネスを展開するため、全面的にバックアップする体制を会社がとっていることが重要です。すばらしい内部資源を保有していても、それを活かせる組織体制が整っていなければ、せっかくの競争優位性も日の目を見るのが困難です。外部環境の「機会」を活かして付加価値を醸成する前に、内部環境の「組織」を活用してその土壌を醸成する必要があるのです。
「競争優位性のある経営資源を活用する体制が整っている」とは具体的にどのような状態でしょうか。例えば「代表取締役が、その経営資源を用いた新規プロジェクト推進を取締役会で正式承認する」といったことが挙げられます。事業推進に伴い指示系統や報酬体系等の適切な経営管理体制が確立されているか、柔軟かつ迅速な意思決定ができる環境が構築されているか、なども組織体制の重要な要因です。プロジェクトそのものに携わる人たちだけでなく、会社全体としてプロジェクトを応援しようという雰囲気作りができていることも組織体制の要因の1つでしょう。

ここまでVRIO分析の4つの問いに関する説明をしてきました。バリューチェーン分析であぶり出した企業の強み候補を、1つずつこの4段階フィルターにかけ、それぞれの問いに「イエス」「ノー」で答え、真の強みにふさわしいかどうかを確認していくことになります。

VRIO分析の留意点

最後に、この絞り込み作業において、留意点を上げておきます。まず、4つの問いに関してV、R、I、Oの順に答えていくのは良いのですが、途中で「ノー」と答える問いがあったとしても、そこでその「強みの候補」に関する分析を終えてしまう必要はありません。必ずすべての問いに関して答えるようにしましょう。その上で、「ノー」と答えた問いに「イエス」と答えられるよう解決を図るかを考慮すべきです。
また、強みや最強の強み(コア・コンピタンス)と判断されるためには、必ずすべての問いの答えが「イエス」である必要はありません。自社の規模や業界内でのポジション、他の内部資源との相対関係等を総合的に考慮し、場合によっては「イエス」3つでもコア・コンピタンスや強みと判断する場合も十分考えられます。

VRIO分析を用いた強み候補の評価とは

そうは言っても、どのような場合にどのような評価になるのかは気になるところです。
ここに、考え方の指標の一例を示しておきます。
①すべての問いに「ノー」と答えた場合: 競争劣位、つまりそのままの状態では弱みの源泉です。
②Vのみに「イエス」と答えた場合: 競争均衡、つまり同質化要素を抱えた状態です。希少価値を与えなければ競争劣位に転落します。
③VとRに「イエス」と答えた場合: 一時的な競争優位です。競合他社に模倣されれば、優位性を失います。
④V、R、Iの3つに「イエス」と答えた場合: 持続的な競争優位性を持っている状態です。直し、組織体制が不十分なため、経営資源が十分に活かしきれていません。
⑤V、R、I、Oすべてに「イエス」と答えた場合: コアコンピテンスの源泉です。持続的競争優位性を、適切な組織体制のもとで十分発揮できている状態です。

まとめ

VRIO分析の全体的なポイントは、以下の通りです。
① VRIO分析では以下のような前提に立っています。
・企業同士の競争環境において、各競争プレイヤーは異なる経営資源を持っている、
・その中には真似ることが可能であったり困難であったりするものが含まれている。
② このような前提条件のもと、企業は自社を取り巻く外部環境を意識しながら経営資源を、強みやコア・コンピタンスとして評価します。
・自社の経営源を外部環境の機会を活かして付加価値を生み出すことができるか?
・自社の経営資源を用いて外部環境の脅威から守ることができるか?
③ 4つの問いを通じての評価は、自社の置かれている状況を、社内外の状況を踏まえて総合的に判断して行います。